大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5947号 判決

原告 株式会社大成共済

右代表者代表取締役 中原敏昭

右訴訟代理人弁護士 冬柴鉄三

同 本井文夫

同 真鍋能人

被告 日興観光株式会社

更生管財人 井上降晴

被告同右 有本信一

右被告ら訴訟代理人弁護士 中本勝

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「原告は被告に対し別紙目録記載の更生債権のうち預託金返還請求権および議決権を有することを確定する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因としてつぎのように述べた。

「(請求の原因)

一、日興観光株式会社は昭和五一年四月一五日会社更生法による更正手続開始決定を受け、同日被告らは更生管財人に命じられた。

二、原告は、別紙目録記載の更生会社のゴルフ会員券の譲渡を受け、現に同会員証書一四枚を所持している。

右取得の経過はつぎのとおりである。すなわち原告は訴外イゼキプレハブ株式会社に対し、従前より多額の経営資金の融資をしていたが、昭和四九年末における不渡手形残高すなわち貸付金残高が九、四五〇万円に達したため、強く右決済を求めたところ、右訴外会社が関連会社である更生会社から譲受けていた本件預託金返還請求権(ゴルフ会員券)を債権譲渡する旨の申し入れがあり、原告はこれを了承し、昭和五〇年二月四日更生会社に右債権譲渡につき承諾を求めたところ、更生会社は原告に対し右債権譲渡を確定日附ある書面により異議なく承諾するとともに、さらに本件ゴルフ会員券一四枚を含む更生会社ゴルフ会員券にもとづき、原告を更生会社ゴルフクラブの正会員と認め、正会員が更生会社に対して有する一切の権利を適法に取得したことをも確認した。(甲三号証覚書)

よって原告は更生会社に対し別紙目録記載のとおりの債権を有するものであるから、右債権につき更生債権の届出をした。

三、しかるに昭和五一年一〇月二一日開かれた大阪地裁の更生債権および更生担保権調査期日において、被告は原告の右債権につき異議を述べた。

四、よって原告は被告に対し更生債権(但し預託金返還請求権に限定する。)確定を求める。

(被告の主張について)

一、被告は甲三号証(覚書)の作成者である吉井宏は甲三号証作成時において更生会社の代表取締役ではなく、右書面は真正なものではないと主張するが、吉井宏が昭和四九年五月三一日退任した旨の登記は甲三号証作成時である昭和五〇年二月四日の時点ではなされて居らず、かりに既に退任していたとしても、これを以て第三者である原告には対抗できないというべきである。

二、被告は原告が更生会社およびサンイースト倶楽部に登録されていないから更生会社の会員と認めることはできないと主張するが、本件においては当該ゴルフクラブの経営にかゝる更生会社においてみずから登録手続の有無にかゝわらず、原告が右覚書記載のゴルフクラブ会員証により、正当な会員たる地位を取得したことを自認しているのであるから、正当な会員たるの地位確認につき登録変更手続を要求する理由は本件には存しないというべきである。」

被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁としてつぎのように述べた。

「一、原告の請求原因一、三項の各事実は認める。

同二項のうち、原告がその主張の更正債権の届出をしたことは認め、訴外イゼキプレハブ株式会社が原告より融資を受けていた事実は不知、その余の事実は否認する。原告提出の甲三号証の作成日時において、吉井宏は更生会社の代表取締役ではなく、それが真正に作成されたものか疑わしく、仮りに真正なものとしてもその記載内容からして債権譲渡の承認があったものとは解せられず、原告を会員と認めたものでないことも明らかである。

二、原告が更生会社のゴルフ会員券を所持しているとしても、ゴルフの会員となるには特定人がサンイーストカントリー倶楽部の理事会の承認を得て更生会社およびサンイーストカントリー倶楽部に登録されて居らねばならず、この登録がないかぎり更生会社のゴルフ会員と認めることはできない。しかるに原告の主張する会員券についてはなんらの登録もないのであるから、原告がそれにつきゴルフ会員の更生債権者とはなり得ない。

三、原告は本件請求趣旨の更生債権を預託金返還請求権のみに限定すると主張するが、預託金返還請求権はゴルフ会員債権の一内容としてこれに従属するものであり、ゴルフ会員であった者が退会、除名、死亡により会員資格を喪失したときに具体化する権利である。

原告は更生会社のゴルフ会員になったこことすらなく、更生会社は原告より預託金の預託を受けたことは全くないのであるから、原告が預託金返還請求権を有しないことは明らかである。」

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、原告の請求原因一項の事実は両当事者間に争いがない。

二、原告は日興観光株式会社の承諾のもとに本件ゴルフ会員券(ないし預託金返還請求権)の譲渡を受けたと主張し、証人小板裕は原告が訴外イゼキプレハブ株式会社に対し有する一億円の貸付金の代物弁済として同社から日興観光のゴルフ会員券の債権譲渡を受け、日興観光の代表取締役をしていた吉井宏が直接、「弊社発行のサンイーストカントリー倶楽部会員券合計五十枚につき、現在原告が所有しているところ、後日同社より指示する第三者が会員登録を申出た場合、これを受付け、以後正会員として正規の権利義務を有することを了承する」旨の覚書(甲三号証)に捺印したなど原告の主張にそう証言をしているが、証人吉井宏は訴外イゼキプレハブ株式会社は原告に対し原告主張のような借金をして居らず、会員券を代物弁済として原告に渡したことはないし、また右覚書(甲三号証)の印影は日興観光の代表取締役の印鑑によったものではなく同証人のあづかり知らぬものであるなど右小板証言と全く相反する証言をしているのに、原告はこの点につき反対尋問又は対質尋問を通じ真実を追及することなく証人尋問を終えて居り、右小板証言はこれらの経緯に照らし容易に措信し難いから、甲三号証(覚書)がその作成名義人とされている日興観光代表取締役吉井宏の作成にかゝるものと認めることができず、他に原告の主張を肯認すべき立証はない。

三、もっとも甲一号各証に押印されている印鑑が日興観光の代表取締役印であることについては両当事者間に争いがなく、証人吉井宏の証言によれば日興観光の実際の仕事は杉原が、甲三号証作成日附当時は梅本昌男が運営に当っていたことが認められるが、原告は梅本昌男(堺刑務所服役中)の証人申請を撤回し、これら預り証などが作成された経緯は不明の儘であり、訴外イゼキプレハブ株式会社が日興観光にゴルフ会員券譲受名下に金員を預託し、右預託金返還請求権を同社に有していたか否かすら確認し得ない。

四、一般にゴルフ会員券はゴルフ会員たる地位で表象するもので、ゴルフ倶楽部の健全な発展のためには会員はゴルフ施設を利用するにふさわしい者を以て構成さるべきものであり、施設利用に伴う施設維持義務をも同時に負担すべく、会員券を以て単なる金銭的債権を化体したものとして投機、投資の目的とするのは本来の姿ではないのであるから、通常の場合ゴルフクラブ規約において、ゴルフ会員の地位はゴルフ倶楽部に登録されなければならない旨規定され、名義変更の場合には所定の名義変更手数料を納めて登録変更の手続を経由することを必要として居り、弁論の全趣旨に徴し日興観光の場合も例外でないものと解せられるところ、原告が本件ゴルフ会員券の取得につき所定の手続を経ていないことは原告の主張自体に照らし自認していることが明らかであり、原告がこれに伴う議決権を有し得ないことはこの点からしても明白である。

原告は本件更生債権を預託金返還請求権のみに限定すると主張するが、一般には右請求権はゴルフ会員債権に従属し、ゴルフ会員であった者が退会、除名、死亡により会員資格を喪失した場合に具体化する権利と解するのが前記規約等の解釈として正当であり、ゴルフ会員であったとは認められない原告がゴルフ会員債権とは離れて、預託金返還請求権を主張するためには、更生会社が直接原告よりゴルフ会員券譲渡の名目を藉りて預託金の授受を受けたと認めるべきなんらかの特段の事由があるか、あるいは原告が第三者より、同人が更生会社に同様の経緯により有していた預託金返還請求権の債権譲渡を受け、更生会社がこれを承諾したなど、特段の事情につき主張、立証を要するというべきところ、右の立証が尽されていないこと前記のとおりであるから、原告の本件請求は爾余の判断をするまでもなく失当である。

五、よって原告の本訴請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村旦)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例